社員に対する会社の安全配慮義務

2011年12月29日

労働契約とは、「使用者(会社)に使用され労働し、これに対する賃金を支払うことについて両者が合意する」ことで成立する契約です。
同時にこの契約は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をするものとする」(労働契約法第5条)という、会社が社員に対して安全配慮義務を負うことも付随しています。

この安全配慮義務とは、業務上災害が起きないように必要な措置を会社が講じることです。
会社が講じる義務としては、業務中の作業による負傷・死亡事故が起きないよう作業施設、機器など危険を防止する義務、社員に対する安全衛生教育の実施や危険な作業方法を取らせないようにする義務、職場の衛生面での環境整備の義務などですが、最近は過重労働を原因とするくも膜下出血、心筋梗塞などの脳血管疾患・虚血性心疾患(以下脳・心臓の病気という)の発症も業務上災害と認定されるケースが増加しており、それらの未然防止策も安全配慮義務として含まれるとされています。

脳・心臓の病気は、一般的には主に加齢、食生活、生活環境などの日常生活による要因や遺伝子等による要因が、自然の時の経過とともに徐々に増悪して発症すると考えられています。
しかし、その自然の時の経過を超えて著しく悪化し発症する場合があります。
その発症の要因の1つが「過重労働」による過重負荷とされています。
その過重負荷の最大の原因とされるものが、長時間労働による身体的・精神的過重負荷です。
すなわち疲労の蓄積ということです。

一方、疲労の回復は、十分な睡眠と休息が一番効果的ともいわれています。
日本人労働者の平日の平均的な1日の時間の大半は、労働時間と睡眠時間で占められています。
食事、入浴、余暇時間等を4時間、通勤時間1時間と最小限の時間を確保すると残りは19時間になります。
残り19時間を労働時間と睡眠時間に充てることになるのですが、労働時間が増えれば、それだけ睡眠時間が減少することになります。
例えば、1日平均5時間を超える残業をすれば、労働時間は14時間(所定労働時間8時間、休憩1時間、残業5時間)となり、1日の睡眠時間は、5時間足らずになってしまいます。
この状態を一か月続けると残業時間は約100時間(5時間×21日=105)を超えることになります。
これでは、社員は十分な睡眠が取れているとは言えず、疲労の蓄積が増大してしまいます。
当然、脳・心臓の病気の発症率も高まります。

このような勤務状況下(疲労が蓄積した状態)で脳・心臓の病気が発症した社員(直前1か月間の残業時間が100時間超えている場合)は、長時間労働による疲労の蓄積が発症の要因とされ、かなりの確率で労災(業務上災害)と認定されてしまいます。
労災認定されれば、会社は、このような残業をさせていた責任が問われることになります。
仮にその社員が死亡したとなれば、社員の遺族から会社は、多額の損害賠償請求を求められることになります。
その結果、大勢は会社が敗訴又は和解により社員の遺族に対して多額の賠償金や和解金を支払うことになります。
そのことは、過去の裁判例からも明らかです。
このような事態が1回でも発生すれば、中小零細企業にとっては一気に会社存亡の危機になってしまいます。

また、最近は業務上の心理的負荷(精神的ストレス)を原因とする精神疾患の発症(うつ病等)も労災(業務上災害)として認定されるようになり、その件数が年々増加しています。
さらに、平成21年4月から業務上の心理的負荷要因(精神的ストレス)に、最近深刻化しているパワハラ、セクハラ、職場のいじめの要因も追加されました。

以上のように安全配慮義務とは、単に作業場所・設備などの危険を防止することや職場環境の衛生面の環境整備をすることに留まらず、勤務時間管理、職場内での人間関係の把握、健康管理など労務管理全般を含めた職場の環境整備も会社に求めているのです。
会社は、社員の心情面も含めた健康管理・勤務時間管理・身体的・肉体的疲労度の把握を含めた日常の労務管理体制の整備が必要不可欠なのです。
このことが、社員の生命を守り、引いては会社の危機管理対策にもなることを経営者は肝に銘じる必要があります。

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